貧困、飢餓、疫病、干ばつ、資源、緑の大地、野生動物……アフリカを形容する言葉は実に多様ですが、子どもたちの笑顔を見るたびに「未来」という言葉を思い浮かべるのは私だけではないと思います。
アフリカは確かに貧しいです。ケニアの首都・ナイロビは高層ビルが立ち並ぶ東アフリカ最大の都市ですが、その中心街にほど近いところに、キベラスラムと呼ばれるスラム街が広がっています。道もガスも電気もない街に、実に100万人以上の人々が暮らしています。
しかし、こんなところでも、子どもたちの表情は明るく、生き生きとしているのが救いです。
未来の世代のためにマータイさんがいつもたとえに使っていたのが、アフリカの伝統的な丸イスでした 。
この丸イスは脚が3本で、上に真ん中が少しくぼんだ円形の座面が乗っています。この3本の脚をマータイさんはそれぞれ、「民主主義の足」「公平な資源管理」「平和の文化」と呼んでいました。座面はまさに今の社会とその未来です。
マータイさんはそこで、脚が1本でも欠けると社会は安定を欠いてしまう。2本欠けたらどんな社会・国も維持することはできない、と説きます。アフリカ大陸は資源がとても豊富にあるのに、脚がどれか欠けているために発展が妨げられている。しっかりした脚を作っていくことがアフリカの未来を明るくするというのが、彼女の持論です。
東アフリカに行くたびに耳にする言葉が「ポレポレ」です。スワヒリ語で「ゆっくりいこう」と意味です。ずいぶん前ですが、ケニア山麓のホテルでマータイさんに会う予定が、3時間過ぎても姿を見せません。秘書が気を遣って「日本では誰もが時間厳守と聞いていますが、本当ですか」と聞いてきました。
私が「日本では電車が2分遅れても車内アナウンスがあります」と答えると目を丸くして「日本人は時間は消えてなくなってしまうと思っているのですね」と言うのです。
さらに彼は「私たちは時間は、ぐるりと回るサークルのようなもので、また出会うことができると信じています。人の出会いと同じです」と「解説」してくれました。
日本を離れるといつも、この時の彼の言葉を思い出します。あせらず、たゆまず、「ポレポレ」で取り組んでいくアフリカの人々。マータイさんが夢見たとおり、丸イスについた3本の足が、しっかりと「未来」という座面を支える日が必ず来ると信じています。
文/MOTTAINAIキャンペーン事務局長 七井辰男